公立中学でも、いろいろやっているが…
もちろん公立中学の側だって、ただ手をこまねいているワケじゃない。
生徒間の学力のバラツキが、授業に対する満足度を下げているてことはわかっているから、習熟度別クラスを導入している公立中学もある。
「習熟度別クラス? あ、できる人とできない人を分けて、授業するっていうやつ?」
そう。
英語や数学だけ、習熟度別に授業を行っている公立中学もあるんだ。
どういうふうにやっているかというと、クラス編成はそのままなんだけど英語と数学の時間だけ、自分のレベルに応じた授業を受けに、別の教室に移動して授業を受けるって形だ。
川崎のある中学では、ホップ・ステップ・ジャンプなんて名前でやってるよ。
「ふ~ん、そうなの? それはスゴいね。
ウチ、初めて聞いた。
やるじゃん、公立!」
もちろんこれは、まだ少数派だ。
こういうことをやっている中学は、まだまだ珍しい。
非常に意欲的な挑戦だと、センセーは思ってる。
ただ公立の場合、なにかと難しい。
というのも、公立の場合まず、『平等じゃない』って反発がまずある。
たとえば習熟度別クラスを編成するだけでも、大変だ。
学校側が生徒の学力を判断して決めると、下位クラスに編入された生徒の親が、『平等じゃない』って文句を言ってくる。
この場合の平等の意味は、『機会均等』(同じことをやらせろ)という意味だね。
中学の側も、そういう文句を言われるのも困るから、クラスの申し込みを希望制にしたりする。
すると、こんどは下位のクラスでじっくり教えたい生徒は中級クラスを希望してくる。
また、どうみても上級クラスの授業にはついて来れそうもない生徒が、上級クラスを希望してきたりする。
これじゃあ、習熟度別クラスで授業しても、意味がないよね。
「難しいね」
うん、難しい。
それに、たとえ習熟度別クラスをうまく編成できたとしても、学力アップにつながるかどうかは怪しい。
「どうして?」
なぜかというと、公立中では高校進学のために、通知票の点(評点、内申点)を学内で統一しないといけないからだ。
私学の場合、たいていは中高一貫型の教育システムになっているから、通知票の点に関しては、そんなに厳密でなくてもいい。
だって、不登校とか、よほど成績が悪くない限り、ほとんどの生徒を系列の高校に進学させるわけだし。
だけど公立中の場合は、内申点というのは高校進学の際に、合否の大きなポイントとなる。
だから、厳密に公平に点を付けなければならないという事情がある。
公立中学の場合は、良くも悪くも内申点という足かせがあるんだね。
となると、せっかく習熟度別クラスを編成しても、効果は半減してしまう。
なぜかというと、学習進度をクラスによって変えることができないからね。
生徒全員に公平に内申点を付けるためには、全員同じ試験を受けさせないといけない。
- 基礎クラスのある生徒は、やさしいテストを受けて良い点を取って、通知票は5。
- 発展クラスのある生徒は、難しいテストを受けて低い点数を取って、通知票は3。
でもこれじゃ、せっかく習熟度別にクラスを分けた意味がないんだね。
「どうして?」
だって、公立中学で勉強できない人って、かなり基礎の勉強からじっくりやり直さなければならないんだけど、
学習進度を全校であわせると、それがなかなかできない。
となると、小学校から積み残しがある生徒は、ついていけっこない。
なのに定期テストは、学年共通だろ? そうなるとどうなると思う?
「できないコは、テストで点数が全然取れないね。」
そうだね。
たとえ習熟度別授業をやっても、定期テストの問題が共通だったら、下位のクラスの生徒は低い点数のままになってしまう。
共通問題だと、基礎レベル問題・中級問題・上級問題の配点によっては、基礎レベルの人は、頑張っても50点までしか取れなかったり…ってことが起こる。
頑張っても3~40点なら、勉強する気、なくすよね?最低でも60点くらい付けてあげたいところだよね。
でもそれができない。
習熟度別クラスをやるなら、学習進度をゆっくりにするとか、授業の時間数を増やすとか、テストを別にするとか、そう言ったことが必要なんだ。
でも現時点では、公立中の場合は、それがなかなかできないのが現状だ。
公立中学では、内申点と平等(機会均等)という足かせがあるために、どうしても中途半端な対応になってしまう。
この辺が、今の公立中の授業の限界なんだね。
【公立中学の問題点】 公立中学でも、習熟度別クラスなどの意欲的な取り組みを行っているところもあるが、効果は疑わしい。